ジュリエット通り

 

 

 

ジュリエット通り 考察

 

 

 

あらすじ(パンフレット引用)

 
住宅街の一角にひっそりとたたずむ高級娼館「枯淡館」その向かいにはこの一帯の地主で資産家・田崎昭一郎の宅がある。枯淡館と田崎家のあいだにある道は、いつの頃からか「ジュリエット通り」と呼ばれていた。
娼館と家庭、親と子、女と男。
いつしか不安定ながらも保たれていた均等は崩れ歪んだ風景のなかに彼らは迷い込んでいく_____
 
 
 
登場人物
 
・田崎太一(安田章大
昭一郎の息子。兄弟の描写がないため一人っ子だと思われる。妻がいるにも関わらず愛人(スイレン)を家に頻繁に呼んでいる父を嫌っていて、そのせいかキキにわざと娼婦の娘だと罵ったりスイレンにお金を盗んだことを持ちかけたり女に対する当たりが強い。また、大学に出たが就職できず面接を受けにいっても父が全部コネを使って裏で手まわしをしていることに気づき投げ出すなど全体的に世の中の難しさに悩み反抗している印象。一方娼婦が仕事の話をすると席を外そうとしたり、いかにもタバコを吸ってそうなのに吸わなかったり、結構そういうところは根からの性格ではないのかなと思う。
 
 
枯淡館で働いている。病弱な男と結婚したためお金がなく店のお金を盗んだ。そのお金を昭一郎が肩代わりしたため店にいることが出来ているが、話が進む中で病気の夫がいることからお金を盗んだことまで全て嘘であることが明らかとなる。昭一郎と別荘へ行くため断っていたヤエシマのクルーザー宴会をいきなり行くべきだって気がしてきたと言い出したり太一に自分はお金を盗んでないと言うなど自分の意思を持っていないタイプ。周りに流されやすく、自分の生き方を誰かに決めてほしいと思っている。
 
 
・田崎昭一郎(風間杜夫
ここ一帯の地主。前妻のヒデコと太一を一人立ちさせる約束をしているため就職ができない太一にコネを使い手回ししている。ヒデコの様子を見てきてくれといろんな人に言い自分では行かない、そこに理由があるのかは謎。(単に離婚した前妻と会いにくいだけかもしれない。)
 
 
・田崎スズ(高岡早紀
昭一郎の後妻。自分は証言者になりたいといい、客観的に見ていることが多い。夫が愛人を家に頻繁に呼んでいるにも関わらず気にしていない様子。太一と話しているシーンでは心を許しているのが多い印象。
 
 
・キキ(趣里
ボタンの娘。以前まで太一が家庭教師をしていたため恋心を抱いていたが、太一の持っていた拡声器を返しに行く途中でモリオカに出会い共に行動するようになり想いを寄せるようになる。が、最後は銃で殺してしまう。劇中に拡声器で歌を歌うシーンがあってすごく聞き惚れた。そしてモリオカを殺した後タバコに火をつけて去っていくシーンも好き。キキ目線のジュリエット通りも見てみたい。
 
 
・ヤエシマ(名前のみ)
国会議員。クルーザー宴会を企画していたが逮捕される。昭一郎はヤエシマに賄賂を渡していたため逮捕されたことにより昭一郎が危なくなる。名前でしか登場しないがヤエシマ逮捕がこの話の中で重要な出来事となる。
 
 
・ウエダ(石田登星)
国防諮問委員会に属している。枯淡館の客で元はダリヤについていたがサクラに移った。ヤエシマ逮捕に深く関わっていて、昭一郎も捕まえようと思っている。
 
 
・モリオカ(裵ジョンミョン)
リーショップモリオカという酒屋の息子。店を継ぐ気がなくフランス外人部隊に入ろうと思っているためフランス語の勉強をしている。戦場へ行き外国で金持ちになって日本に帰ってくる。そして貧乏な人たちにお金を分け与えたいらしい。芯が強いイメージで正統派の考えをしている。
 
・トモ(大鶴佐助
キキに思いを寄せていたが話の後半からはわからない。モリオカに心酔している様子でそのモリオカが所属している“最近世間を騒がせている軍服を着て銃を持ちジープを乗り回す一団”に加わっていた。
 
 
・サクラ(東風万智子
枯淡館で働いている。ウエダと繋がっていて話の後半では物語を動かす人物。枯淡館とジープを繋ぐスパイのような役割をしている。そのために昭一郎が地主の枯淡館で働いたのか、働いてからウエダと繋がったのかは謎。ただ、初めはダリヤについていたウエダが途中からサクラに移ることから後者だと思う。
 
枯淡館に働いているのはサクラ以外にも主人・菅野一彦(石住昭彦)と女将・登志子(渡辺真起子)、昔なじみの娼婦でキキの母ボタン(烏丸せつこ)、若い娼婦のカンナ(井元まほ)やナデシコ荒井萌)、サクラにウエダを取られ意気消沈したダリヤ(池津祥子)、そしてスイレンがいる。
 
 
・ヒデコ(名前のみ)
昭一郎の前妻。隣町(カズダ町)駅前の商店街で洋服屋を営んでいて、昭一郎とは太一を一人立ちさせる約束をしている。
 
 
 
 
 
プロローグ
 
何もない真っ白な舞台上に昭一郎が出てくる。続いてキキとスズ。昭一郎がスズに「さっき道の真ん中で何か這っている虫を棒でつっついる男の子を見た」と言う。軍服・銃・ジープ・のちに出てくる太鼓の音とジュリエット通りのきつい消毒液の匂いは時代背景として戦争を醸し出すものが多い。
 
 
 
⒈ジュリエット通り
 
昭一郎とスズが話しているところに、消毒液の匂いを警察に言いに行こうとしている登志子が枯淡館から出てくる。3人が話し終わるとトモが通りの向こうから歩いてきてキキと話し始める。そこに田崎太一登場。自転車を乗り回しながら「帰ってまいりました!田崎太一が帰ってまいりました!ジュリエット通りの皆様、ご機嫌うるわしゅうあられますでしょうか。太一は、御機嫌ななめでございます。なぜ!どうして!道にしゃがみ込んで聞きました。行列をなす蟻さんんたちに!『太一はなぜご機嫌ななめなのですか?』しかし行列をなす蟻さんたちは、なんにもこたえず、ただひたすら、右から左へ、左から右へ、せっせせっせとと行き来するばかり!太一はその蟻さんたちに『お疲れさん』の一言も言えず、気づけば『おんどれら、踏み潰すぞコラ!』と悪態の限りをつくしていたのでございます!いけません!こんなことではいけません!太一、反省です!深々と反省です。おやおや?そこにいるのは私の知るトモ!あらま、女人も連れ添うて!」が太一の一言目のセリフ。これを拡声器を使って言うんだからインパクトありすぎる上にとても長い。この蟻が話の中で重要なキーワードになる。その後キキが言う「世の中には偶然てものと必然てものがあると人は言う。でも私はそんなこと信じない。全ては必然よ。」はキキの考え方をわかりやすく表してる言葉だと思った。この後太一の拡声器を返しに行く時にモリオカと出会う。
 
 
 
⒉枯淡館のティーラウンジ
 
ダリヤが自分の客(ウエダ)をサクラに寝取られた話から始まる。スイレンが「お金に困ってるってわりには、よく休むのよね。」と言われると昭一郎が机の脚を金づちでトントン打ち始める。戯曲には"田崎、関係のないことをし出す"って書いてあるから話を遮れれば机の脚じゃなくてもよかったみたい。スイレンのお金の話になるといつも別の話を持ち出したり会話をかき消すような行動をする昭一郎。初めは気にならないけどスイレンの嘘に気づけば2回目からはなるほどといった感じ。キキがこの頃ジープの連中と付き合いがあるみたいで…ってボタンが言うことからこの時にはもうモリオカ達と仲良くなり始めたことがわかる。スイレンがヤエシマのクルーザー宴会に参加すると言う。
 
 
 
⒊田崎家の庭
 
太一がスイレンに金を盗んだ話を持ちかける。するとスイレンは「お金は盗んでいない。盗んだことにしているの。あなたのお父様のために。」と。これをきっかけに太一が真相を暴こうと動き始める。このことを裏で聞いていた昭一郎が太一の去ったあとスイレンの手を捻り上げ自分の過ちを忘れないようにと昭一郎に歯形を付けさせる。スイレンはクルーザー宴会を断り別荘に行くと昭一郎と約束した。スイレンが去るのと入れ替わりにスズが入ってくる。レジでパートのおばさんたちがスズを見て似てるというのはスイレンのこと。そして昭一郎が出かけて太一が出てくる。スズの読んでいる本『アンナ・カレーニナ』のネタ。女嫌いな太一だけどスズと話している時はたのしそう。キキに娼婦の娘と罵った時、太一くんのママも同じでしょ?と言われた時なにも言わなかったのはスズだけ捉え方が違うのから?少なくとも悪くは思ってなさそう。
 
 
 
⒋ジュリエット通り
 
キキが既にモリオカ達とだいぶ仲良くなっている。モリオカは 貧乏な人たちにお金を分け与えるために自分が金持ちになる、そのためにフランス外人部隊に入る。みたいなこと言ってるけどここはモリオカの熱意が伝わるくらいであんまり重要ではないと思う。モリオカ達が去って、太一とキキの会話、(キキの恋心が太一からモリオカに変わってしまったため)太一に対し「逃がした魚は大きいと思ってる?」とキキが聞くと「そう、魚だよ。おまえは!エサを与えりゃ無闇に食いつく!エサが無くなりゃ不幸だ、不幸だ言う!」の返しが上手いと思った。
その後、去ろうとしたキキが立ち止まって突拍子もなくジュリエットの話をする。昔ジュリエットと呼ばれた女がいて、一度だけ自分の客になったがお金がなく追い出されてしまった。という内容。その話は太一から聞いたと言う。なぜいきなりそんな話をいまするのかと太一が聞いたら「既に懐かしいからよ。この通りが。」と。キキはもうモリオカ達と行動することに決めたからジュリエット通りには来るけど戻らないって意味だと思う。それをまだわかっていない太一は再びなぜその話をするんだ!!と焦った様子だけど太一なりに周りで起きている普通ではない事態を察知してのセリフだと思う。いままで自分のことを好いていた人がどこかへ行く。日常が日常じゃなくなるみたいな。そこで新聞紙を舞う演出があり舞台では幕間となる。ここでの新聞紙はきっとこの後起きるヤエシマ逮捕の記事が書かれたもの。
 
 
 
(幕間)
 
 
 
⒌枯淡館のティーラウンジ
 
音楽に合わせて踊る娼婦たち。それを見ながら酒をのんでいるウエダと相手をしているボタンの図からスタートする。ここで出てくるスズの台本はクルーザー宴会で披露しようとしてるもの。その内容は"殿様が小姓に女と恋をしないように歯形を残した。殿様には側妻にも歯形を残していたんだけどその歯形を残された同士恋に落ちる"という話。スイレンが昭一郎に歯形を残された(残してもらった)話と重なる。スイレンとスズは女同士で恋に落ちないからここで言いたいのは"忘れないように歯形を残す"ということ。普通、忘れないために歯形を残してくださいなんて言わないし、これはスズが書いた台本だからどうしてスイレンが知ってるんだということになり、2人の同一人物説が強まる。そこに傷を負っている主人が帰ってくる。娼婦たちは驚きながら治療を始め、なぜこんなことになったのか聞くとヤエシマ逮捕を聞き、警察の前で抗議したらやられたとのこと。ここで初めてヤエシマの逮捕が明らかになるが、みんなが騒然としている中こっそりサクラだけ姿を消す。
 
 
 
⒍ジュリエット通り
 
枯淡館からサクラが出てくる。5章からすぐの出来事。サクラとジープが繋がっていることに太一は気づいている。ヤエシマ逮捕により、賄賂を渡していた昭一郎は大丈夫なのかとサクラが太一に言うとあんたにとっては望み通りの展開なんじゃないかと言われ言葉を失う。この後戯曲には「不意に太一はスイレンの声を聞いた。その声は「太一くん」と言わなかったか。バルコニーを見るとスイレンがいた。目を離し再びバルコニーを見るとそこにいたのはダリヤ。太一は一瞬スイレンの幻影を見たのだ___。」とあるが、ここがわからない。なぜこのタイミングでスイレンが出てくるのか。なぜ太一はヤエシマ逮捕を娼婦たちより先に知っていて、サクラとジープの連中が繋がっていることに気づいたのか。ここで言いたいのは普段とスイレンが違う呼び方をしたということではなく太一の名前を呼んでいるということ。その意図が謎。この辺からわからないことが多くなってくる。
 
 
⒎ジュリエット通り
 
暗転し次に通りに立っていたのはボタンとキキ。ここでキキは拡声器を使って「恋の季節」を歌う。キキは職業というものを恥ずかしいものだと捉えているから母さんが娼婦でも気にしないという。その言葉にボタンは救われるが、モリオカとトモが来てキキは共に去ってしまう。モリオカがボタンに当事者だとか水田とか難しい話をするけど重要なこととは結びつかなさそうだしこの話の中でこれは深くまで考えなくていいと思う。
 
 
 
⒏田崎家の庭
 
スイレンと昭一郎が話している。スイレンには病に伏せってる夫もいなく結婚すらしていない。金を盗んだのも全部嘘で雨の日にスズがスイレンの傘を持って枯淡館の金庫室に入りなりすましてお金を盗んだ。それは昭一郎の指示だったということが明らかになる。そして章末では太一がそのことについて気づいていたことも分かる。ヤエシマが逮捕されたことで自分も警察に狙われる日が近いことからか昭一郎が4人で食事がしたいと言い出し、3章で太一とスズがしていた『アンナ・カレーニナ』のネタをもとにエアカレーを食べる。ここで「男たちがケンカをし、女たちが仲良くなろうとする。これは戦争の様子だから男と女がケンカしている間はまだ大丈夫」という話を太一が持ち出して戦争とか偽善の分布とか難しい話をする。ここもよくわからない。俺はどこかで戦争を求めてるのかなあ…ということは太一は女同士仲良くしてほしいと思ってるってこと?
 
 
 
⒐ジュリエット通り
 
スズがここから離れて書き物でもしようかという話をする。どんなことを書くのかと聞くとスズは証言者になりたいと言う。要は物を客観視したいって意味で、この後読書会に行くから帰りが遅くなると昭一郎に伝えたままもう帰ってこない。ヤエシマ逮捕からみんな騒然としてる中(ここ一帯の地主である昭一郎もいずれ逮捕され自分たちの行き場がなくなるから)スズだけはこの出来事に動じず、やっと証言者になれるといった具合だった。
昭一郎がトモに犯罪者と言われたところから太一の周りの景色が歪んでくる。歪んだ風景の中に佇んでいるダリヤはサクラにウエダを取られ放浪している。戯曲には入り口のわからない枯淡館と書かれているからもう閉めてしまった様子。片足だけ裸足のダリヤをみて片方の靴を脱ぎ渡した太一。「両方あげると次はあんたがどうして裸足なの?って聞くだろ。だから片足だけ。」優しいんじゃなくて裸足の女を見たくないだけって言うさりげない太一くんかっこよかった。お互い片足だけ靴を履いている状況に踊りながら笑うシーン。観劇中結構周りから笑い声が聞こえたけど全然笑えなかった。ウエダから捨てられたダリヤと周りの人間がどんどんいなくなっていく太一。悲しみの底にいる2人が面白くないことで笑ってる状況にとてもそんな気持ちにはなれなかった。
ふざけあっている中、太一が前妻ヒデコのエピソードを思い出す。"母親は新聞の広告紙の裏にエンピツでオレの似顔絵を描いた。絵なんか書く人じゃなかった。初めて母親の絵を見た。オレはこれを最後にもう母に会えないんじゃないかと思った。"これを急に思い出したのはエアカレーをしている時、太一がいつ警察が来るんだと昭一郎に聞くと、子供の頃デパートで食べた福神漬けやエレベーターの話をした昭一郎と重なって、もう会えなくなるような気がしたから。太一は急いで歪んだ空間の中に飛び込む。(何枚か重なった鏡に飲み込まれ消えていくような演出)
 
 
10.枯淡館のティーラウンジ
 
調度品が無くなっていたり、娼婦の姿がないことからもう流浪館への移動がほとんど終わっていることがわかる。今いるのは主人・登志子・スイレンのみ。昭一郎の恩義があるからなかなか動けない主人とスイレンを登志子が説得しているがそこにウエダが来る。主人の腕を強く捻り「お前のせいで上から強く言われているんだ」とはやく枯淡館から出ていくことを強要する。そんな姿をみた登志子は主人を助けもしず「急に用事を思い出して」と枯淡館を出て行ってしまう。登志子は人が良すぎる主人を見放した。気の合う2人だと思っていたけどその関係を揺らがせてしまうくらい地主の昭一郎がいなくなることは大きな出来事だった。腕を強く捻られた主人を見てスイレンは台所から包丁を持ってきてウエダを刺そうとする。主人が気づき、ここでスイレンがウエダを刺したら状況が悪化するだろうと自らウエダを庇い怪我をする。それに対しウエダはスイレンのことをゴミと呼ぶ。スイレンの「なぜ自分が存在しているかわからない。自分がいなくなることでみんなが幸せになっているような気がする。こんな幸せな世界があったんだって…。」という言葉にスイレンらしさが詰まっていると思った。だからどんな理由であれ、自分を必要とする昭一郎から離れられなかった。主人はそんなことないよと言うけどこの話の中で唯一最後までいい人だったのは主人だけのような気がする。
 
 
11.町のはずれ
 
サクラとキキとモリオカとトモがいる。サクラがトモに少し重いバイオリンケースを渡す。これは9章でウエダからサクラが渡されたもの。トモがバイオリンケースを開けるとマシンガンが出てくる。モリオカがトモに俺がお前に何を教えたのか言ってみろと言うとトモは「全部だよ!全部、あんたが教えてくれたんだよ!生きること!強く生きること!正しく生きること!新しい世界を見ること!フランス語だって教えてくれただろ!」と大きな声で言った。トモは普段モリオカさんと言ってたし、それをあんたって呼んでることから必死さが伝わる。冷静さを取り戻せないのをサクラが察しマシンガンをトモの手から取りキキに渡す。するとキキはいきなりモリオカに向けて「母さん・・・!!!」と叫びながらマシンガンを撃った。キキはどうして好きだったモリオカを打ったんだろう。しかも母さんと叫びながら。母さんよりモリオカ達といることを選んだキキは7章で母さんに別れを告げる。そこからキキは出てきてないからウエダ達とどこまで関わったのか描写されてなくてわからないけどずっと持ち歩いてたバイオリンケースに銃を入れるくらいだからきっと深く。だから読み取れることとしたらモリオカ達と母さんが話した7章。目の前で母さんのことをモリオカに批判されて、そのことをずっと根に持ってたということも考えられるけどそれは違うと思う。モリオカの考え方とウエダの考え方が違うからモリオカは殺された。そうするとキキがウエダ側についてモリオカを殺したのはなんとなくわかる気がするけどしっくりこない。やっぱり母さんが大事だったということだと思う。だったらダリヤの状況を知ってる側からするとウエダ達からも離れて母さんのところに戻ればいいのにと思うけどあそこに一回入ると抜け出せないくらいの闇なんだろうな。撃った後、モリオカからもらった外国のタバコを吸い、死体に向けて吸い殻を投げ捨て去るシーンが、モリオカから学んだことを全部捨てたように見えてかっこよかった。この後キキはどうしたのかわからないけれどきっとウエダ達のところに居ると思う。太一から学んだ"いろんな人間を知ること"を知りすぎた結果がこんなにも複雑だなんて、もう戻れないとわかっているけど太一が好きだった無邪気な頃のキキに戻ってほしい。
 
雨が降り始め、キキが消えた物陰からいまの出来事を見ていたかのように太一が現れる。すると別の場所からスズも。スズはもうここを去るようで別れの言葉を言うために太一を探していた。「"別荘に行く"なんでもないことだと思おうとすればするほど、いやそうじゃない。そうやって誰かがとんでもないことを始めようとしているんだって思えてくる。」普通"別荘に行く"というのはなんでもないことだけど、この状況から昭一郎が何かをするんじゃないか(=自分の前から消えるんじゃないか)と考えてしまうと9章で言ったことを別の言い方でスズに言ってる。証言者になりたいと言っていたスズは、誰かに話す時に太一が私の息子だって嘘をつくかもしれないと言い太一が昭一郎のもとへ走り去った後腕の歯型をみる。
 
 
12.ジュリエット通り
 
雨が降っている。太一は家に入って昭一郎を探すが見つからない。もう出かけてしまったのかと思い枯淡館にも入ってみると昭一郎が出てきた。太一が昭一郎の会社で働こうとしていることを伝える。閉鎖された工場は鉄工所に変わりこの田崎家がなくなることは時計の音にすぎない、オレはもうあんた(昭一郎)の息子ではなくただに貧乏な男だと言い、ここで太一がカレーの話をする。「オレは、あんたとカレーを食べたことを忘れない。あんたが福神漬けをカレーの脇にのっけてたことも。…ホントは嬉しかったんだってことも言っておくよ。」8章でカレーを食べている時に昭一郎が「子供の頃デパートの食堂でカレーを食べた。初めて福神漬けを食べてこんなおいしいものがあるのかと思った。それから家でカレーを食べるたびに私のおふくろは福神漬けを添えてくれるようになった。」と言ってるけどそれが嬉しかったっていうのは単に昔と変わらない昭一郎が嬉しかったということなんじゃないかと思った。太一がホントは嬉しかったといった後"あんなカレーをな"と言い"あんなカレーにな"だよ。と口論になる。結局目的を表わす助動詞の場合は"あんなカレーを"なんだよと強く言う昭一郎に対して「わかった。わかった。わかった。わかった…。」と歩き回りその姿を昭一郎が見ている。ここで戯曲に書かれている"それが田崎昭一郎にとって、幼かった太一の思い出のすべてなのかもしれない。"が今回の話の中で1番意味がわからなかった。舞台では頭を押さえてかがみこんで歩き回っていたからその姿が冒頭で昭一郎が言っていた男の子が何か這っておる虫を棒でつっついたシーンと重なる。ここももう少し時間おいて考えてみようかな。
 
歩き回る太一、気づいたら昭一郎がいなくなっていてスイレンがバルコニーにいる。枯淡館に入ろうとすると鍵が閉まっていてスイレンに聞くと夜のうちに出発したと言われる。ということは12章での昭一郎と太一の会話は幻想だった。太一はずっと昭一郎に反発していたのに、今回の騒動でおやじの会社で働くよ言ったり福神漬けをカレーの脇にのせるのをホントは嬉しかったんだと言ったり、太一は太一なりに考えていままでむしゃくしゃいていたことを言葉にしていた気がする。それを昭一郎にぶつけた唯一のシーンだったのにそれは太一の幻想だったというのがすごく悲しい。スイレンが太一に200枚ほどのお札を差し出してこれを返せば私はスイレンではなくなると言う。スイレンは娼婦としての名だから元は他の名があるはずなんだけどスイレンにとってスイレンというのはただの娼婦ではなくお金を盗むための人、昭一郎に尽くすための人として捉えていたのだと思う。だから昭一郎が居なくなった今、ついていかなかったスイレンスイレンという名がいらなくなったからお金を返し終わりにする。そして太一に始めさせてもらう、お金を渡して。ということだと思った。太一はスイレンが昭一郎について行くと思った。2人とも死んでしまうと思った。でもスイレンはついていかなかった。戯曲には書かれてなかったけどまだ生きているんだろう?とスイレンの手をとるけど舞台の時冷たい…って言っていたり、抱きしめようとしてすり抜ける演出もあった気がする。太一はスイレンから渡されたお金を流浪館に持って行って話をつけようとした。(初めて太一とスイレンに恋愛っぽい描写)私がここにいるのか教えてほしいというスイレンに「ああ、ここにいるよ。このお金がその証拠だ。だってこれはキミが持っていた…今オレの手にあるのは、キミに渡されたお金だ。キミを買うための。キミはスイレンのままだ…。」と言う太一。お金を太一に渡せばスイレンスイレンでなくなるけど太一がスイレンを買えばまたスイレンになれる。昭一郎が居なくなり太一がスイレンに従わせるころで時代の流れを表している。スイレンが噛んでと言い腕を差し出したところにウエダとトモが走ってきて田崎家に入る。それをみた太一が2人を追いかけようとバルコニーに手をかけた時、持っていたお金を落としてしまう。舞い散る札。バルコニーから降りてくる太一。田崎家の方に行こうとしてふとバルコニーを見上げる。と、すでにスイレンはいない。太一は落ちた札を見ようとして地面を見る。(散った札を見て)蟻だ…。田崎が来る。「何をしている?」太一「蟻が這っている…。」いつしかそこには何もない空間になっている…。了
 
 
 
最後は戯曲を抜粋して一気に書いてみた。難しくて、でも大事で、私の好きなシーンの1つ。ウエダとトモが来ていなかったら太一はスイレンの腕を噛んでいた?舞台の時、本当に噛んでしまうと思った覚えがあるからあの勢いなら噛んでそう。そうしたらスイレンは太一のもの。それでも田崎家に入る2人を追いかけようとしたのは昭一郎の方がスイレンより大事だったのか、スイレンが自分のものになるということにまだ戸惑いがあったのか、咄嗟の出来事だったからか…。バルコニーからお金を落としたのはスイレンを買おうとしていたお金がなくなってしまったことも意味しているけど、ここではスイレンがここに存在している証拠が無くなったことを強く言いたいのだと思う。そして見上げるとスイレンがいなくなっていて散った札を蟻という。この蟻についてはこの後まとめておわり。
 
 
 
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このジュリエット通りは「時代の巡り」と「物の見方」というのが主旨になってるんじゃないかなと思った。
ジュリエットと男/昭一郎とスズ/太一とスイレン/この3組に共通していることは「娼婦で働いてた女が男のためにお金を盗みそれで自分を買ってもらう」ということ。まずこれが一つ時代の巡りを表してる。だからジュリエットと男から太一とスイレンまでに3つの時代が巡っている。初めも終わりも舞台上には何もなく、太一の言う「行列をなす蟻さんたち」と「蟻が這っている」はこの"ジュリエット通り"という舞台での時代の巡りを象徴してたんだと思う。
 
また、冒頭の空間で昭一郎が言う男の子の出来事と最後の太一の言葉は同じ出来事のことを言っているのに昭一郎は"虫"といい太一は"蟻"といったが観客から見たらあれは"お札"だった。また、這っているものを見ているのは太一なのに昭一郎は男の子と言う。自分の子供であり男の子というような年齢でもない。これが物の見方の違い。時代が巡っているのなら最後の蟻が這っているという太一は本当に男の子の年齢だったっていうのも考えられるし。
 
 
そしてスズとスイレン。この2人は同一人物だと考えていいと思う。1番の理由は腕の歯形。2人とも腕に歯形があり、スイレンは自分の過ちを忘れないように昭一郎につけてもらった、スズはジュリエット通りから立ち去る際太一と話し、太一が去った後自分の腕にある歯形を見た。同一人物だとすると同時にいることはないから、4人でエアカレーを食べるシーンは空想。太一は昭一郎のことが本当は好きだった。でも伝えられなかった。そして前妻ヒデコとの約束とはいえ、就職の手回しをしたり自分のところで働けばいいなどと言っていた昭一郎も太一のことが好きだった。だから幻想だとしても一緒に食べれてよかったんじゃないかな。
 
 
スズがどんな女の子だったか思い出せないのはジープに乗った連中の騒音を"通り過ぎるのを待つしかない"ように時間は自由に操れないから。空想のシーンといえば本編中の考察にも書いたけど太一と昭一郎があんなカレーをなについて話す12章と最後バルコニーでスイレンと話すシーンも。
 
 
何もない空間に始め昭一郎が出てきて次にバイオリンを持ったキキが出てくるが昭一郎には気づかない。そして出てきたスズは昭一郎がいるのを知っているが昭一郎はスズが出てきたことに気づかなかった。ここは無なのか別世界はたまたこれが現実なのか。夢ってこともありえるかもしれないけどいずれにせよ不思議な空間だった。スズとキキがいるからジュリエット通りから去った人たちが集まった?となると他の人はどこに行っちゃったのって感じだけど。でも太一もいるし死後の世界ではないと思う。自分の生き方を誰かに決めてほしいと思ってるスイレンがここにいないということはスイレンは元から存在しなかった。でもこの話、誰が居なくなってもおかしくない。それが話を難しくしているんだと思う。
 
例えば太一。太一はヤエシマ逮捕のことを誰よりも早く知っていたし太一のいないところで起こっている出来事も知っていて情報がすごく早い。その情報量は全て私たち観客が見たあとのことで、太一はいつも観客目線だった。太一が居なくてもヤエシマ逮捕のことから出来事が変わらなかったと思うしむしろ太一がなにかこの話の中でみんなを変えるような行動をしたかと言われると浮び上らない。(浮かび上がることは全て幻想でのこと)太一が居なくてもスズが居なくてもスイレンが居なくても成り立つ。昭一郎はいないといけない人間だったけど。
 
そこである仮定を思いついた。
証言者になりたいというスズは11章で誰かに話す時に太一のことを自分の息子だと嘘をつくかもしれないと言う。スズとスイレンが同一人物だと考えた時に、どうしても当てはまらないのがスズは後妻でスイレンは娼婦だということ。スズは娼婦だったけど昭一郎の後妻になった。もしこのジュリエット通りという話がスズが証言者として書いた話だとしたら、スズは昭一郎の後妻でもなく、スイレンのようなただの娼婦で昭一郎と愛人関係であったら、昭一郎の後妻だと、太一が自分の息子だと嘘をついていても話が成り立ってしまう。昭一郎と愛人関係にあったスズが望んでいたことをスイレンに置き換えて書いたのかもしれない
このようにジュリエット通りは人によって捉え方が違うしその人でも環境によってまた変わるのがおもしろい。
 
わからないことといえば時代背景。
軍服・銃・ジープ・太鼓の音・ジュリエット通りのきつい消毒液の匂いなど戦争を醸し出すものが多いのにも関わらず、LINEやエスカレーター・クルーザー宴会や大学に出ているのに就職できないなど現代チックな場面も多く読み取りにくい。ベースは戦争だけど少し現代のアレンジしたと捉えればいいのか、時代が巡っていることからその時代のものとしてみたらいいのが判断つけづらい。
 
それに大まかに流してきたけどキキのバイオリンの音の意味や、男女の戦争、"田崎昭一郎にとって幼かった太一の思い出のすべてかもしれない"の意味などまだわかっていないこともあるし、少しずつ時間をかけてわかるようになりたいな。
 
 
 
舞台から2年経ったいままとめたのは自分の環境が変わってどれだけ捉え方が変わったのか気になったから。
それと安田章大主演のジュリエット通りってどんな話なの?と聞かれた時に上手く答えれなかったのが悔しかった。観劇後はやすくんの演技に魅了されてジュリエット通りの内容にも深く考えされるものがあったのに全然伝えられなくて。やすくんがこの舞台で成長したと言ってる分、私もこの話を自分なりに理解して少しでも成長できたと思う。なにより達成感が大きい。こんなに舞台の何十倍も時間をかけて考えてみたけどまだまだ分からないことがあって、いまはこうだと思っていたことも少し経てばまた違うのかもしれないいし、答えが1つじゃないところがこの話の面白さだと思う。
 
ジュリエット通りの大まかな内容は、女が店の金を盗んだ。愛人が肩代わりしたおかげで店にいることができているけどその男には妻も息子もいて実際には男が妻を使って愛情を盗人と仕立てた。それを息子である主人公が真相を探ろうとする、といった感じなんだろうけどそんな単純なものじゃなくていろいろな話が横行している分難しいけど面白い。欲を言えばもっと大人になってから観劇したかったけど、DVDを出しててほしいとは思わないしそれも舞台の良さだと思う。目の前で演技しているのが観れる舞台の仕事がまたやすくんにきてほしい。おわり!